1.はじめに
「アトリエゆう」は2017年に沖縄県宜野湾市で開講した絵画・工作・プログラミング教室です。Tech for Elementaryのフランチャイズ教室として2018年から本格的にプログラミング教室を開始し、今年で開講2年になります。現在、約30名の生徒さんが通ってくれています。
今年度から株式会社サーティファイの試験会場認定を受け、4月に「ジュニア・プログラミング検定(以下、検定と記述します)」の最初の試験を実施いたしました。
ここでは、検定を受験するにあたって準備したことや講師が感じたことなどをまとめます。他の教室さんやプログラミングを勉強しているお子さんをもつ親御さんのお役に立てればと思います。
2.ジュニア・プログラミング検定とは
株式会社サーティファイが実施している認定試験で、Scratchを使ったプログラミングスキルを測定し、その能力を証明・認定するものです。
試験では、まず完成作品の動画を見ます。そして、どんなプログラミングをするかという説明が書かれた問題用紙が配布されます。Scratch上に必要な素材(キャラクター等)が用意された状態でプログラミングを開始します。問題のとおりにプログラムを制作したのち、自由にアレンジします。アレンジした内容を答案用紙に記入します。「どこを」「どのように」アレンジしたかを記入し、そのとおりにプログラムが動いているかどうかも評価対象となります。
検定の内容については、以下の記事をご参照ください。
ジュニア・プログラミング検定を受験しよう!「学びたい」を育むために
3.模擬試験の実施と問題点の発見
Tech for Elementaryの「はじめてのプログラミング」コースを受講している生徒さん、修了した生徒さんを対象に受験希望者を募り、希望する生徒さんを対象に、まず「模擬試験」を実施することにしました。サーティファイ社のホームページで、各級の試験レベル相当の問題が配布されているため、それらをダウンロードして、最初に以下の2名に解いてもらいました。(カッコ内は2020年4月進級後の学年)
- Aくん(小6):月4時間ずつ、1年半通っている。「スクラッチ上級」コースまで進んでいる。
- Mさん(中1):月2時間ずつ、2年通っている。「はじめてのプログラミング」コースと「マインクラフトプログラミング」コースを修了。
Aくんは1級を目指せると考えていましたが、まずは2級の問題を、Mさんには4級の問題をやってもらいました。2人とも高得点で合格レベルに達すると考えてしました。
しかし実際にやってみると2人ともギリギリ合格できる点数、という結果になりました。2人とも、「はじめてのプログラミング」コースでは、問題なくプログラムが組めていました。用語も理解しており、ある程度自分の力でプログラムを組むことができる生徒さんでした。それでも、模擬試験では思うように力を発揮することができませんでした。
模擬試験の試験問題と結果を分析すると、2人の解き方にはいくつか共通する問題点があることに気づきました。
1つ目の問題点はTech for Elementaryの動画教材では経験していない、「文章を読んでその通りにプログラミングする」ところで手間取っているという点です。
たとえば、問題文は以下のように書かれています。
メッセージ「スタート」を受け取ったときの動作(コスチュームの変化)。
・a,bの順に動作する
a.「がんばるぞ!」と「1」秒言う。
b.ずっと、繰り返し、「0.5」秒ごとに次のコスチュームに変わり続ける。
この問題で作成すべきプログラムは下の図のとおりなのですが、文章を読んでプログラムを作る、という作業に慣れていないと、どのブロックを使うのか、それをどうつなぐべきかを考えて作成するのに時間が掛かるのだということに気づきました。
また「a,bの順に」のような書き方に慣れていないと、「aって何?」となってしまいます。下まで読めばわかるのですが、いったん頭に「?」が浮かんでしまうと、そこで思考がストップしてしまい、なかなか修正できないようです。
2つ目の問題点は、自分で考えてプログラミングできる生徒さんほど、問題文を読むより先に動画を見てイメージしたプログラムを作り始めてしまうという点です。このため、作成途中で悩んだ際に問題文を読んでも、自分が作ったプログラムと違う作り方をしているため修正できない、ということがありました。
3つ目の問題点は、アレンジの方法です。Aくんの場合、ある程度正しく動くプログラムが作れた段階でアレンジをしましたが、もとのプログラムにも大きく手をいれたため、正しく動作しない部分が出てしまいました。制限時間内にそれを修正することができませんでした。
4.「コツ」
2人の模擬試験で発見した問題点から、以下のような「検定受験のコツ」をまとめました。
- 問題文の表現に慣れる
「a、bの順に動作する」「③のあとの動作」など、検定試験ならではの表現に慣れる。 - 問題文をよく読み、問題文のとおりにプログラミングする
「ずっと」と書いてあれば「ずっと」ブロックを使う。「〇〇まで繰り返す」と書いてあれば「〇〇まで繰り返す」ブロックを使う、というように、問題文に書いてある言葉と一致するブロックを探す。 - アレンジは安全に行う
もとのプログラムはできるだけ触らない。別のキャラクターを追加して、そのキャラクターを動かすなどして、もとのプログラムの動作が変わってしまわないようにする。
1~3のコツは、それぞれ先述の問題点1~3に対応しています。
ほかの受験希望の生徒さんには、これらの「コツ」を伝授してから模擬試験に臨んでもらいました。その結果、どの生徒さんも持っている実力に近い結果を出せるようになったと感じています。
5.試験本番
新型コロナウイルス感染拡大の影響は沖縄にもおよび、4月に受験予定だった生徒さんも、半数が試験延期を希望されました。また、受験すると決めた生徒さんに対しても、同時に複数の生徒さんが受験することがないよう、時間を調整させていただき、感染対策を十分に講じた上で実施いたしました。
本番は先述のMさんに加え、「はじめてのプログラミングコース」を終了し、「マインクラフトプログラミングコース」で楽しく勉強しているHくん(小5)、通い始めてわずか1年間で「スクラッチ上級」まで終わらせたKくん(小6)が受験しました。
Mさん:最初の模擬試験のあと、コツを説明して3級の模擬試験を受験。合格点に達したため、本番でも3級を受験しました。完成作品どおりにプログラムするのが難しい試験だったため、アレンジするところまで手が届きませんでしたが、時間いっぱいまで粘って頑張ってくれました。
Hくん:4級の模擬試験1回と、同程度の練習問題を受験。3級を狙うか迷った末、初回なので4級を受験しました。本番の試験も落ち着いて、模擬試験どおりの実力を発揮してくれました。
Kくん:3級~1級の模擬試験を順に受験し、十分合格できると見込まれたため、1級を受験しました。アレンジまでほぼ完ぺきに仕上げてくれました。途中、思い通りに動作しなかった部分がありましたが、何度も動画を見返し、自分のプログラムの実行結果と比較して、きっちり修正してくれました。
試験結果をサーティファイ社に送付して結果を待ちました。Mさんがギリギリ合格できるかどうか、と心配したのですが、結果は全員合格となりました。
6.まとめ
今回検定を実施して感じたことは、プログラミングでも「国語」が大事なのだということです。検定では、問題文を正しく読み、理解し、それをプログラムに落とし込む力が必要でした。
Tech for Elementaryの動画教材では、動画を見ながらブロックを組み合わせ、途中の課題では、「こういう動作をさせるためには、どうブロックを組み合わせたらよいか」という考え方でプログラミングをしていました。「動作のイメージ」と「プログラム」を行ったり来たりするトレーニングはできているのですが、「文章」と「動作のイメージ」や「文章」と「プログラム」が十分につながっていなかったように思います。今回、模擬試験を行ったことでその問題点を発見することができました。生徒さんたちに少しトレーニングをすることで、いままでの学習に「文章」がつながり、合格という結果になったと思っています。
プログラムの動く仕組みを本当の意味で理解するためには、言葉で説明された内容をプログラムに落とし込む、あるいはその逆にプログラムでやっていることを言葉で説明する、というトレーニングが必要だと感じました。今後は教室でも、「作ったプログラムを言葉で説明してみる」というトレーニングを積極的に取り入れていこうと思いました。
Text by 毛呂 功(アトリエゆう)