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海外でのプログラミング教育への取り組み~イングランド・エストニア編~

 

おくゆかしさが尊重される、日本人特有の考え方なのでしょうか。政治・経済・教育、さまざまな分野において「日本はダメだ、遅れている」という発言は強い影響力を持っています。

 

プログラミング教育もまたしかり。

 

欧米やアジア諸国に大きく出遅れているというイメージにとらわれ、このままでは日本の子どもたちに未来はないような気持ちになっていませんか?

 

今回は、諸外国におけるプログラミング教育への取り組みと現状について、前後編にわけてお話ししますね。

 

前編はプログラミング教育においてパイオニア的存在のイングランドと、高い実績を誇るエストニアの例をご紹介します。

 

たった2つの国のちがいに、プログラミング教育のヒントを見つけました。

 

 

イングランドとエストニア、どんなふうにプログラミングに教育取り組んでいるの?

 

 

あらためまして、こんにちは!子ども向けプログラミング教室Tech for elementary(以下、TFE)本部の澤部アイコです!

 

日本では2020年、小学校でプログラミング教育が必修化されることが決まりました。今後の国際競争に必要な人材が十分育成できていないことや、これから先、より多くのモノがITを利用してコントロールされるようになるものの、使いこなせる人が少ないことが問題だと考えられているためです。

 

生活を快適にする道具を使いこなし、それぞれが持つ能力を効率的に伸ばすため、すべての小学生を対象にプログラミング教育がはじまることになったのです。

 

ところがこちらの記事「2020年プログラミング教育必修化!小学校の授業はどう変わる?」でも触れたとおり、2020年のスタートを目前に課題は山積み。導入の準備ができていないどころか、現場の先生たちはお手上げ状態だと聞きます。

 

では、プログラミング教育をいち早く導入した国が、どのような制度で子どもたちの能力を伸ばしているのか、2014年に文部科学省が発表した「諸外国におけるプログラミング教育に関する調査研究」を参考に見てみましょう。

 

プログラミング教育への取り組みが熱心な国としては、イングランド(英国の一地域)とエストニアが代表的です。

 

イングランドでは、2014年にそれまでコンピュータの操作技術やアプリケーションの使い方を中心に扱って来た”ICT”のカリキュラムを変更し、”Computing”を新設しました。政府内や産業界から、「ICTで学んでも、コンピュータサイエンスが学べていない」と指摘されたことが背景にあります。

 

“ICT”では従来の読み書き計算に加え、与えられた材料から必要な情報を引き出し、活用する能力を伸ばすことが重視されていたのに対し、”Computing”ではアルゴリズム(単純な計算や操作を組み合わせて効率よく問題を解く手順)や、論理的な思考力の育成に力を入れ、コンピュータに関する幅広い知識を身につけることが重視されています。5歳から16歳までの、プライマリースクールとセカンダリースクールで必修化されました。

 

対するエストニアでは、2012年から小学校1年生以上を対象に、プログラミング教育が実施されています。ただこの国ではプログラミングは必修ではなく、選択教科の扱いです。インターネット電話サービス“Skype”を生んだIT先進国での取り組みとあり、こちらも注目度の高いモデルです。

 

先駆者、イングランドの現状

 

 

イングランドでは、「子供たちが将来働くための準備をし、デジタル社会に効果的に参加するために習得すべき能力を身につけさせる」として、Computingを推進しました。

 

教材や教員の育成にも予算が割り当てられ、国家を上げた取り組みは世界中から注目されました。そして3年が過ぎた2017年11月、これまでの取り組みをまとめたレポートが発表されました。そのなかでイングランドのComputingには現在、5つの課題があると指摘されています。

 

① 難しさ
カリキュラムでは、5~16歳までを必修化の対象としていますが、14~16歳では進学試験にコンピューティングを選んだ生徒だけが学ぶことになっています。ところがこのコースでは選択する生徒が非常に少ないことが報告されています。

 

理由は以下の3つ。
(1)学校によって取り組みへの熱意に差があり、コンピューティングをおもしろいと思えない生徒も多い
(2)必修化されてはいるものの、小規模校や地方の学校では教員不足などの理由で、十分な授業が行われていない
(3)進学試験において、コンピューティングの試験が難しいというイメージが定着してしまっている

 

② 男女間の格差
イングランドでは、コンピューティングを継続して学ぶ生徒の8割が男子だと報告されています。TFEの加盟教室でも、その割合に大きなちがいはありません。

 

③ 教員不足
2012年から2017年にかけて、イングランドではコンピューティングを指導できる教員の採用を増やすと発表していました。ところが、現実は算数や理科など、他の教科と兼務する教員を採用することでなんとか目標の68%を達成したにすぎません。

 

④ 教員へのサポート不足
現在、”Computing”を指導するのは、以前”ICT”を担当していた教員です。しかし”Computing”への変更後、追加修正されたカリキュラムについて研修を受ける機会や、情報を共有する同僚は少ないのが現状です。”Computing”を担当する多くの教員が自信を持てないまま授業を行った結果、生徒の関心を高められていないことが懸念されています。

 

⑤ 初等・中等教育における研究不足
以前から、コンピュータサイエンスは高等教育機関を対象に行われてきました。そのため、初等・中等教育における教材やカリキュラムについての研究は、まだ十分でないと報告されています。

 

イングランドの”Computing”についての経過発表は、教育に関わる人に大きな衝撃を与えました。大きな理念をかかげ、国をあげて取り組んだにもかかわらず、現場の状況はつぎはぎだらけだとも言われていたからです。

 

一方で、イングランド政府はこの発表を受けてすぐ、教員養成のための投資と支援を決めました。すでに「どの学年で何をやればいいのか」という指針は明確に示されており、伝統的に教育に地域の人材をまきこみながら社会とつながってきたイングランドの土壌があれば、軌道修正は十分可能であると考える専門家もいます。

 

 

必修化ではない、評価もしない、エストニアの現状

 

 

エストニアでは、7歳から18歳までの子どもを対象に、すべての公立高校でプログラミングの授業が選択できることを目標に、2012年から“ProgeTiiger” というプログラミング教育推進プログラムが開始されています。

 

国が定めたカリキュラムはなく、学校や指導者が指導内容を決定。Scratchやロボットを使った活動や、日本ではじまるプログラミング教育同様、国語や算数など、既存の教科でもプログラミング的思考を育んでいます。

 

一方で科学・数学分野において高い学力を誇り、国際社会からもIT教育の盛り上がりが評価されている国にもかかわらず、“ProgeTiiger”は進学における試験や、教科としての評価は行われていません。現在のところ、実施する予定もないとのこと。

 

それなのになぜ、IT教育は子どもたちに定着しているのか。ヒントは歴史の中にもありました。

 

エストニアは1991年に旧ソ連から独立したバルト三国のひとつ。旧ソ連時代にあったIT研究所の資本を利用し、独立の際にITを国の柱としました。小さな国が国際社会で生き残っていくため、当時は「学校の屋根の修理より、インターネットの普及を優先した」とも言われています。

 

独立を勝ちとったエストニアの国民には、旧ソ連のシステムへのこだわりがなく、スムーズに新しいシステムに移行できたことも、IT政策成功の要因です。

 

現在エストニアでは、学校によっては小学生のスマホ所持率が90%をこえ、校内での使用も許可されています。子どもたちは、つねにITにふれながら学習する環境にいます。

 

エストニアのIT教育を統括する機関(HITSA)では、IT教育に関する教員や教育関係者からの問い合わせをすべてオンライン経由とし、「パソコンやインターネットを使わなければ、業務が立ちゆかない」状況を意図的につくり出しています。

 

さらに実生活では、日本のマイナンバーにあたる国民IDカードにも保険証・銀行カード・免許証・電子投票権などの機能を搭載して、生活の隅々にまでITを行き渡らせ、すべての国民がITとかかわる環境を整備しています。

 

イングランドのように追跡調査もなく、課題も明確にはされていないエストニア。指導者不足や指導内容のかたよりなどが挙げられているものの、学校や指導者に内容をまかせるスタイルに変更の予定はありません。

 

「与えられた」イングランドと、「作ってきた」エストニア。国の規模や歴史背景など、比較はむずかしい両者でありながら、イングランドに感じる息苦しさがエストニアに感じられないのは、データ量のちがいだけではないように思えます。

 

後編では、アジア諸国やアメリカでの取り組みと、日本のプログラミング教育のこれからを考えていきますね。

 

 

Text by 黒田 靜

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